平成25年度 教化研修会 詳報

平成25年度 教化研修会 詳報

去る9月9・10日の両日、三峯神社を会場に県内神職53名の参加を頂き、教化研修会を開催しました。
教化研修部では、今年度の研修のねらいを、
① 神社神道を要素とした対社会活動から、神道教化の有効な方法を学ぶ
② 社会福祉を通じて青少年対策、氏子崇敬者への教化活動を図る
③ 地域づくりの要となる神社を目指して
と定めました。
東日本大震災から約2年が経ち、現状で神社関係者が行うことができる社会貢献とは何かを求める中で、今回の研修主題を『神社が取り組む社会貢献』副題に「生きる喜びの為に」としました。

講師には、國學院大學神道文化学部准教授黒崎浩行先生、月山神社禰宜(岩手県神社庁気仙支部長)荒木眞幸先生をお招きしました。
また、講演に加え、グループワークとして避難所運営シミュレーション訓練「避難所HUG」を行いました。

先ず初めに、黒崎先生に「神社の絆と、その現代的可能性」と題したご講演を頂きました。現代の地域社会は困難を抱えており、「無縁社会」、不安定就労、家族関係の動揺、居住空間の不安定により、人間関係が構築できないという不安がある。この社会的排除に対しての社会的包摂に宗教は貢献できるのか。教の領域から注目してみると社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)があり、この社会関係資本の充実により、社会的包摂につながっていく。社会的関係資本は「絆」という意味合いにも捉えられ、神社としての社会関係資本は、伝統的な氏子集団、地域を超えた集団での活動もみられる。実際に祭りの継承と保存、鎮守の森の保全、神社福祉、神職による保育等で神社や宗教としての社会関係資本が改めて注目されてきていると述べられました。
東日本大震災では、救援拠点となった神社や地域を超えた支援活動があり、例として神社の避難所として開放、参集殿を物資の提供場所としたこと、熊本県の高校生が宮大工の授業で制作した鳥居等を被災地の神社に奉納されたことを挙げられました。
最後に、地域社会の絆を取り戻すのが大きな課題であり、神社の役割は、元々ある在り方にもう一度目を向け直して、その在り方を次世代へ継承、橋渡ししていくなかで新しいものが付け加わっていくのではないか。東日本大震災のこれからの復興再生に色々な困難や課題があるが、神社界が連携して支えていくことが求められる。その中に自治体や市民たちとのより幅広い可能性があるとまとめられました。

続いて、荒木先生に「神社が避難所になったら~東日本大震災を経験して~」と題したご講演を頂きました。荒木先生は実際に東日本大震災で起きた大津波により、宮司を務めている今泉天満宮をご神木以外全て流され、現在、岩手県神社庁気仙支部長として、支部管内の被災神社の復旧・復興に尽力されています。
震災当日の様子から、津波の悲惨さ、また、社務所を避難所として提供された貴重な体験をお話しされました。テレビ等では伝わらない実際に目にした光景や社務所での様々な出来事、また、津波によって本殿、拝殿、神輿庫、石燈呂、石鳥居、社務所全てを流失された今泉天満宮の再建、復興への現在の状況を述べられました。講演の終わりに真面目に神職として奉仕することが、神様の御心に叶い、社会福祉であり、社会貢献でもある。自信と信念を持って皆さんも神明奉仕に務めて頂ければと願われました。

講演後、班別討議として五班編成にて「避難所HUG」を行いました。HUGは、避難所(Hinanjo)運営(Unei)ゲーム(Game)の略であり、ゲーム参加者が避難所を体育館や教室に見立てた平面図に避難者の年齢や性別、国籍やそれぞれが抱える事情が書かれたカードをどれだけ適切に配置できるか、また避難所で起こる様々な出来事にどう対応していくかを模擬体験するゲームです。ゲーム終了後に意見交換を行い、発表用「記入表」へ書き込み、各班のまとめを行いました。各班は、「私たちの班では、○○は△△だから、××しました。他の班ではどうしましたか?」と記入し、その質問に対して、他の班から意見を求めます。この質問を何回か繰り返して、他の班との比較検討を行います。班別発表では、各班ともに肯定、否定と様々な意見が出ましたが、共通するところも多くありました。参加者の多くは、初めて「避難所HUG」を体験したようですが、改めて日頃から災害時を想定した訓練や備えの必要性を強く感じていたようです。
埼玉県でも、今後いつ大きな災害が起きるか分かりません。災害が起きた場合には、地域住民との絆やつながりが大事かと思います。地域の中心にもなり得る神社で、神職として日々奉仕をして地域住民との距離をより近づけていかなければならないと感じました。

班別討論協議内容
震災仮想体験 避難所HUGを5班に分かれて行い、班毎にゲーム内で起こった事を
自由に判断処理し、その結果を記載して、お互いに意見交換を行いました。

ゲーム説明
【避難所HUG】とは、避難所のH・運営のU・ゲームのGの頭文字をとりHUG(抱きしめる意味も兼ねています)と称しています。
もし、自分自身が避難所の運営をしなければならない立場になったとき、最初の段階で殺到する人々や出来事にどう対応すれば良いか。避難所運営を皆で考えるためのひとつのアプローチとして、作成された物で、避難者の年齢や性別、国籍やそれぞれが抱える事情が書かれたカードを、避難所の体育館や教室に見立てた平面図にどれだけ適切に配置できるか、また避難所で起こる様々な出来事にどう対応していくかを模擬体験するゲームです。

今回のゲーム条件

◎ 午前11時に大地震発生・マグニチュード 8.0
電気-停電・ガス-遮断・水道-断水・電話-ときどき通じる・下水道-不明  
非常用発電装置はない

◎ 耐震化してあるため校舎、体育館に大きな被害はなく、応急危険度判定の結果利用出来る為、臨時避難所とする。
・仮設トイレなし。
・テント2張(3.6×5.4m)がある。
・調理室なし。
・備蓄食料なし。
・救護所は設置されない。

◎ 校庭に100人程度の避難者がいるが、続々と避難してきている。
・老人、乳幼児、妊婦、外国人、車椅子の姿が見える。
・車で避難してきている人もいる。
・雨足が強くなってきているので、順次体育館に入れる必要がある。

◎ ゲーム参加者は、地元自治会、自主防災会の役員で、避難者を体育館や教室に振り分け、避難所を適切に運営していかなければならない立場とする。

以上の条件の下、ゲームを開始しました。
以下がその結果となります。

 

『1班 判断結果』
同じ地区同士の方が精神的にも安定する為、避難者を地区毎に振り分けた。高齢者・病人・要介護者等は1階の教室にそれぞれ集め体の負担を少なくした。マスコミ対策や情報を纏める為、1階に本部を設置した。健常者は2・3階に集めた。伝染病感染予備者は空気感染を防ぐ為、1つの部屋に纏めた。仮設電話は使用者が並びやすい様、廊下の端に設けた。車内生活希望者を纏めた。妊娠中の方は助産婦の近くに纏めた。救援物資搬入口を広く設け、物資仕分場を広く取った。テレビ。パソコンは避難者の娯楽・情報収集の為、ステージ中央に設けた。

上記判断に対する
肯定意見
病人・妊婦を1階に入れたのは良いと思う。救援物資搬入口を広くし、仕分場を広く取った事も賛同できる。仮設電話は使いやすい位置だと思う。パソコンは情報網として本部に設置した方が混乱が少ないのではないか。健常者を2・3階にしているが、隔離部屋としている班もあり判断が難しいと思う。

否定意見
総合本部を組織化しなかった為、担当の振分けが出来なかった。車内生活希望は却下し、体育館に入ってもらった方が良かったのではないか。ペットに対するケアが出来なかった。避難所でなくなった時の、各教室が使える様に考慮すべきだった。救援物資・毛布等は校庭でなく、屋内の方が濡れたりせず、すぐ配りやすいかと思います。

 

『2班判断結果』
私たちの班では知り合い同士で分け、地区別にしました。高齢者・老人は直ぐに動ける様に1階にしました。乳児一家はトラブルを避けるため3階にしました。旅行者は別地域の方なので3階に男女分けにしました。給水車は炊き出しの横に・更衣テントはシャワー横に・若い男女を中心にボランティアを組ませ 掃除・運び出し等をする。 ペットはアレルギー者を考慮し動物小屋に移しました。
上記判断に対する
肯定意見
高齢者・老人を1階にしたのは良いと思う。ペットを小屋に入れることには賛同。臨機応変に若い男女をボランティアに組ませた事には賛同。

否定意見
若い男女をボランティアに組ませる案は良いが、経験が無いのでリーダー役の年長者を含ませるべきではないか。瀕死の避難者への配慮が少ないのでは。地域民ではないので旅行者を男女別に分けるのは賛同できない。基準を設けて区別を行わないと苦情が出る恐れがある。

 

『3班判断結果』
私達の班では同一地域並びに同家族は纏めました。外国人旅行者は言葉が通じない為、3階に男女別に纏めました。イベントがある度、掲示板に貼り出し全員に案内した。受付を入り口に置き一元管理した。妊婦さん・認知症の方・物資の搬入・ペット問題を考慮した。

上記判断に対する
肯定意見
通路の確保に関して、良く考えられ賛同した。ペットは外だが屋根の下にして、盲導犬は室内に入れたことに賛同。対策本部を校長室にしたのは良いと思う。保健室をあえて空けておいたのは非常の際に使えるので良いと思う。

否定意見
避難車両を校庭に入れるべきではない。受付を入り口に設けると混雑してしまう。保健室を使わなかった事が悔やまれる。亡くなった方の部屋は人目に触れない所の方が良いのではないか。イベントの啓示は誤報もあるので慎重に判断して行うべき。

 

『4班判断結果』
体育館は知り合い同士になる地区別に分けた。病気の方などは1階の教室に分けた。外国人旅行者は男女別で部屋を分けた。(2・3階に入る)災害対策本部よりの情報は掲示板に掲示した。救援物資は受付に保管。全体の配置を記入した。ヘルパー・助産婦の方には妊婦等の世話を依頼。認知症の方はベットに寝かせる。酒臭い満潮さんは何があるかわからない為、隔離した。ペットは盲導犬のみ教室に入れた。
上記判断に対する
肯定意見
地区別に分けた点は賛同。避難者のヘルパー・助産婦等を有効活用できる発想が素晴らしい。情報掲示を行い病人を1階に入れた事に賛同。

否定意見
外国人旅行者を男女別に分ける必要性があったか。毛布等の救援物資をを受け付けに置くと邪魔になるのでは。盲導犬を教室の入れた事には賛同できない。

 

『5班判断結果』
体調不良の方は纏めて同室に纏めた。赤ちゃんを連れた方や、親を亡くした子供さん、妊婦さんは保健室に纏め、助産婦さんに同席してもらった。要介護の方や認知症の方は一緒に纏まってもらった。犬などのペットは基本外とした。水周りのものはプール近くへ設置し、プールの水を有効活用した。個人情報の公開の有無判定は保留とした。

上記判断に対する
肯定意見
避難者を地域別に分けることで安心感が生まれると思う。プールの水を有効活用する案は賛同できる。

否定意見
ペットと盲導犬を一緒にするのは疑問。保健室に避難者を入れると怪我人の収容場所はどうなるのか。個人情報の住所・氏名等は公開しないと避難者同士で確認ができないのではないか。子供連れや妊婦等を助産婦だけに任せるのは負担が多すぎると思う。

※ 結びに ※
以上様々な賛否両論の意見を頂く事が出来ました。私達が日常考えもしない事がもしも起こったならば?・・今回はゲームでしたので緊迫感は少なかったかもしれません。 又、テーマである社会貢献よりも備災の色が強く出てしまいましたが、有事の際の判断トレーニングに活用できればと思い、今回の企画を行いました。
上記の資料をもう一度確認頂き、少しでも御参加皆様方、各社での教化活動に役立てましたならば幸いです。

埼玉県神社庁教化研修部 新井班一同

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