平成26年度 教養研修会報告

平成26年度 教養研修会報告
開催日:平成27年3月5日
会場:川越氷川神社氷川会館
研修主題「神葬祭について」

現在の神葬祭を含む葬儀全般を見渡すと、近年は高齢化が進み、多くの人々が人生の終わり方に深い関心を寄せています。しかしながら葬儀や埋葬については伝統宗教の影響力が薄れ、家族葬や無宗教の葬儀、また樹木葬や散骨といった方法が現れており、人々の死生観が曖昧なままにその形は大きく変化しています。今回は神葬祭を中心とした死生観・霊魂観について学ぶとともに、神葬祭の祭式や県内神職による各地域で行われている神葬祭の事例報告についての研修を企画しました。

○「家庭祭祀における神葬祭の現状と課題
     ~歴史を踏まえ実際の事例から考える~」
埼玉県神社庁地方研修所講師・北向神社宮司 岡本一雄先生
葬儀の歴史と神葬祭運動
葬儀については、すでに縄文時代には、死霊による生者への災いを避ける為、死者の霊を閉じ込める屈葬という形がみられる。その後、弥生時代後期になると死者に対して蘇りの期待とさまよう魂を鎮めるモガリが始まり、仏教伝来以降は、火葬の広まりや古墳からは銅椀などの副葬品から仏葬儀礼が確認される。
飛鳥時代には、天武天皇が崩御された際、初めて天皇の葬儀に仏教が関与して以来、明治天皇が崩御されるまでの約1200年もの間、皇室の葬儀に仏教が関与した。特に、江戸時代250年間にも及んだ寺請制度は、仏教各宗の教義や仏式による葬儀を、広く国民の生活に定着させた。
しかし、近世後期に起こった神葬祭運動は、神官たちに古代からの死生観についての再考を強くうながした。つまり寺請制度や仏教に任せた葬祭について疑問を提起し、身体の清浄を専らとする神職に対し、死の不浄、死穢からの単なる盲目的逃避を諫めると理解すべきである。この神葬祭運動は仏教のみの葬祭式からの解放を願う意識の高い国学思想の醸成によるものと考える。そこには、日本人が仏教以前から変わらず持ち続けてきた霊魂観があり、それを本居宣長・平田篤胤・岡熊臣・千家尊福・柳田國男らの考え方を例に挙げた。
神職による神道宗門独立への運動は、近世後期待に寛政から、天保の頃にかけて全国的に活発となった。武蔵国では秩父郡、榛沢郡、児玉郡などで実行された。
明治維新後に寺請制度は廃止され、神葬祭が急に増加しながらも、明治15年の内務省達により神社は宗教に非ずとされ、官国弊社の神官の葬儀関与が禁止となった。以来、終戦時まで上級神職は関与せず、府県社以下の神職が従前とおり執行した。戦後、漸くすべての神職が神葬祭に関与出来るようになった。
霊魂観と人生儀礼
日本人の霊魂観では、母体に魂が身籠り、はじめて命が生じる。赤子が誕生すると様々な魂を育むための産育儀礼が執り行われ、立派な青年となり地域を支える成人となる。こうして節目ごとに様々な人生儀礼を経ながら、その後、歳を経るごとに魂は枯れてゆき、老いを迎え、あの世に向かう準備をする。
魂が離れると帰幽となり、葬送儀礼が行われ、死者の霊魂を遺族がねんごろな年祭(供養)をすることによって、この世の執着心を和らげ、死霊から生々しい人間臭さが取り除かれ、清い魂へと昇華してゆく。多くの人はこの安定した魂の状態を祖霊になったとか、仏教では成仏したという。
本庄児玉地方の神葬祭の現状と課題について
埋葬について、昭和40年代は土葬が多かったが、57年に火葬場が設営され、火葬が一般的となり、現在土葬は皆無となった。また、通夜の翌日、葬儀の前に遺体を火葬するのが一般的となっている。
神葬祭では通夜祭に遷霊を行うので問題は無いが、仏葬では葬儀当日に死者を仏道に導くため引導を渡すため、遺体が火葬されていては問題があると思われる。しかし、僧侶は葬儀前に火葬する事を問題にしていない。その理由として、かつて本庄児玉地方では火葬後に丁寧な葬列を組んで埋葬していた。夕刻に葬列を組んで埋葬することを重視するあまり、午前中に火葬して葬儀告別式を執行しても不思議に思わなくなったと思われる。
神葬祭は地域の慣例を重んじて執行されているので、特に氏子(神徒)から異議が出ず、神道の儀式をもって執り行えば問題は無いと思われる。しかし、地域や神職によって大いに差異があることを承知し、多種多様な情報を収集しておく必要がある。その他、かだいは多くあると思われるが、神職一同が各地域や各神職の意見を尊重し、成したる事に理由が付き、神道的に大きな問題がなければ許容範囲であるとすべきと思う。

○「神葬祭祭式の実践について」
埼玉県神社庁祭式講師 高梨佳樹先生・千島直美先生
平成10年当時、教化委員会祭儀研究部により発行された『神葬祭(増補)~県内における神葬祭実践提示~』の冊子をテキストに、高梨・千島両先生の指導・解説のもと、「遷霊祭」「葬場祭」の実演に併せて、中啓と神依板を使用した遷霊の作法を行った。特に遷霊については、葬儀習俗の違いからか関心が高く、多くの質疑があった。

○県内神職による神葬祭事例報告
地域性も含め、①過去と現在での神葬祭の違い②地域の現状③葬祭奉仕の時間④葬祭次第⑤葬儀の特色などについて、須長宜久吉見神社宮司(熊谷市)・甲田豊治秩父神社権禰宜(秩父市)・土屋一彦氷川社宮司(さいたま市)・小林威朗久伊豆神社禰宜(越谷市)の4名から事例報告がなされた。

○まとめ
近年の葬儀形態をみると、主にセレモニーホールで執り行われることが多く、従前行われてきた自宅葬と比較すると喪家や地域との関わりが薄くなり、今後葬儀自体が軽視される危険性もあります。喪家や葬儀業者にも神道に関する霊魂観や先祖を祀る意義を説き、神葬祭について理解を深めていただくためにも、研修等を通し我々神職が神葬祭について研鑽していかなければなりません。

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